野鳥画家のバードウォッチングとは?

野鳥画家のバードウォッチングとは?

 

野鳥画家の注目ポイントは独特?

 

 私は野鳥を描く仕事をしておりますが、そのためによく野外へ出かけ、観察をしています。私にとってそれは特別なことではなく、描くための情報収集という面が強いのですが、最近私の観察着眼点について多くの方から興味深いとのご意見をいただきましたので、私が「描くためにどんな観察をしているか」について、今回は書かせていただきたいと思います。

 

 

一般種にたくさん会うことが大切

 

 バードウォッチングには「たくさんの種類の野鳥に出会う」という楽しみ方があります。1日野鳥観察に出かけて、たくさんの種類に会えると、確かに充実感がありますが、私にとってそれは必ずしも大事な条件ではありません。家の近くでは身近な鳥を、そして遠出をしたときはその地域での普通の種類の鳥たちに会うことが大切だと感じています。それは、出会えた鳥の自然な振る舞いや、その種類の特徴を知るために、たくさんの個体に会いたいからです。

 長年バードウォッチングをして感じることの一つに、迷ってきた珍しい鳥は、その地域に慣れていないせいか、緊張をしていたり、行動がぎこちないような雰囲気を感じるということがあります。例えば、本来は群れで行動する鳥が迷鳥として日本に来るときは単独であることが多いので、“その鳥らしい動き”をしないことがあります。

 迷って飛来した鳥は生息地から過酷な長旅をしてきたことで、羽の模様や色合いもやや色が違うこともあります。そのため、本来の生息地で会うことは心がけていることの一つです。

 このような理由から、同じ種類の鳥をたくさん観察することに軸足を置いています。

バードウォッチング 双眼鏡

身近な野鳥、ハクセキレイのスケッチ。人に慣れているようで、双眼鏡を使わずにスケッチできる鳥の一つ。

 

 

繰り返し見られる場所を探す

 

 スケッチは、鉛筆で動きを捉えることから始めます。4B6Bといったやわらかい芯の鉛筆を用いて、消しゴムを使わずに観察した野鳥の形を紙に描いていきます。細部を描くことはせず、まずは気に入った鳥の姿勢や動きに集中しますが、鳥は動きが速い生き物ですので、必ずしも一度で全てを描くことができないことも多いです。その時は「同じシーンが繰り返し見られる工夫」をします。

 例えば、飛翔するトビをスケッチしたいときは、トビが何羽も飛んでいる場所をまず探します。風が常に吹いていて、トビが採餌のためによく飛んでいるような場所を探すのです。地図を広げて、崖が近くにある港などが、その環境です。

 関東では、千葉の房総半島などがアクセスも良くて、スケッチには向いている環境です。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

風に舞うトビのスケッチ

 

 

群れる鳥は、群れで見られる場所へ

 

 私が初めてマガンを見たのは、中学2年生の時に出かけた石川県片野鴨池周辺の田んぼで下。餌を採る群れは、仲間と鳴きあったり、リラックスした様子で羽づくろいをするなどの行動がとても印象的でした。その後、関東に飛来した1羽にも会いましたが、頸を常に伸ばして警戒をしており、石川県であったような行動のバリエーションがなかったことに驚きました。そしてその時に「群れで生活する鳥は、やはり群れでいるときの行動が自然」だと感じました。

 その後は「群れる鳥は群れの行動をまずは見る」ということを大事にしています。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

群れで生活するマガンは、実に行動のバリエーションが多く、観察していてもとても楽しいです

 

 

描かない部分を知ることで自信がつく

 

 基本的に一人でバードウォッチングをしていることの多い私ですが、時々カメラマンなどがいる場所で観察することもあります。そのような状況では、私が注目している行動や様子と、カメラマンがシャッターを切るタイミングには、明らかな違いあることに気がつきます。

 一番印象的だったのは、公園の小さな池に飛来したクイナという鳥の観察をしてきた時のことです。浅い水辺で餌を取るクイナは、脚を水の中で入れていることがほとんどですが、この時は珍しく池の縁を囲むコンクリートの上を歩き、脚の様子(指の向きや体と足の角度)がよくわかり、とても興味深かったのです。しかし、そこにいたカメラマンの方々は全くシャッターを切りませんでした。聞くと「人工物が写り込んでいるから」とのことでした。

 実際、水中にある脚や指は描く必要がないことがほとんどないですが、「知らなくて描けない」ということと、「知っていて、描かない」とでは、その絵に対する自信が画面に雰囲気としてにじみ出ることがあります。そのため、描く必要のない鳥の部位であっても、きちんと観察するようにしています。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

浅い水の中を歩くことが多いクイナは、脚や指の様子が見えないことが多い。このスケッチはは脚の角度に注目したときのもの。

 

 

描くための観察が教えてくれること

 

 描くために細かく観察することを続けていると、同時に野鳥の識別をする力もついてきます。同じ種類でたくさんの個体数を観察することで、類似種の目の位置や頭の形などに“感覚的に”違いを感じるようになります。また、画像として鳥の特徴が頭に残るために、図鑑にはあまり紹介されない特徴を覚えていることもしばしばです。また、描くために観察していて気が付いた「カイツブリが潜る直前には頭の羽毛を少し寝かせる点」などは、仕事のための撮影するときには非常に役立っています。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

木の幹を移動する鳥の飛翔する姿で、白く見える部分の差を紹介したとき、とてもわかりやすいと言われたことがありました(左上:ゴジュウカラ 右上:コゲラ 下:キバシリ)

 

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

潜る直前には頭の羽毛を寝かせる。緊張した時の顔の違いを観察で知っていたことが、この発見につながっています

 

 

飛んでいる鳥はどうやってスケッチ?

 

 飛んでいる鳥のスケッチ方法についてよく質問をされますが、それにはまず飛んでいるときの翼の動かし方の基本を頭に入れておくことをお勧めしています。

 コツは大形の鳥の観察をすることです。例えば、ハクチョウの着水時は、羽ばたきも比較的ゆっくりで、少し翼をすぼめた時の形は、双眼鏡でも確認ができます。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

ハクチョウの着水シーンのスケッチ。実はこの時は翼の形とともに、脚を広げてブレーキにしていることにも注目した。

バードウォッチング イラスト

 

 

まずは鉛筆で、そのあとに彩色

 

 飛んでいるツバメもスケッチ対象として、とてもおもしろいと思っています。飛ぶことに特化した翼や体の形は、どの角度から見ても惚れ惚れします。カメラでは「シャッターチャンスを逃した」ように見える角度でも、そのツバメの美しさを感じられるのが、スケッチのいいところだと思います。

 そんなスケッチを積み重ねて、画面構成をして彩色するのが私は好きです。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

飛翔するツバメのスケッチ

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

そのスケッチを基に飛んでいるツバメを画面にたくさん描き、彩色した絵

 

 

 

ナベヅルに会いに行ったときに

 

 本州唯一のナベヅルの定期的な飛来地、山口県へ行ったときのことです。観察舎の中でスケッチをしていたら、地元の親子に声をかけられました。写真を撮る人は多いけれど、スケッチをしている人はとても珍しかったようで、思わず声をかけた、とのこと。特にお子さんは、私のスケッチを見て、体の形や頸の曲げ方、鳥の動きがこんなに変化があるものだったかと思われたそうです。普段何気なく見ていたツルを私の絵を通して、動きに興味を持ってくれたのは、とても嬉しかったですし、描き方のコツをお伝えすると、「難しそうだけれどやってみる!」と嬉しいことをおっしゃってくださいました。

バードウォッチング 双眼鏡 イラスト

ナベヅルのスケッチ。本州で唯一の飛来地、周南市へ行った時に見たツルを描きました。夕方、こちらに飛翔するツルの白い頸が夕陽で少しピンクに染まったのが綺麗でした。

 

 バードウォッチングに興味を持った方の多くが、カメラを持ち歩くようになりますが、もしよろしければ、読者の皆さんも、ぜひ小さなスケッチブックで構いませんので、ポケットにしのばせて描いてくださったら、嬉しいです。

 

 うまく描こうとするのではなく、見たままを正直に描くことで、きっと多くの発見があると思います。

 もし「一人で始めるのはちょっと…」というのであれば、私が発起人の一人にもなっています。年数回活動をしている「フィールドスケッチ会」へ、ぜひいらしてください。これまで、関東地域限定ではありますが、2014年より活動を続けております。ご興味のある方は、ぜひ!

 

フィールドスケッチ会

http://fieldsketchbook.blogspot.com/

 

 神戸宇考 野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)

プロフィール1973年 石川県生まれ
英国サンドーランド大学自然環境画学科卒。

5歳の頃から野鳥観察を始め、小学生の時に野生生物画家の藪内正幸氏の画集を見て野鳥の絵を描き始める。

自然環境管理を学び、環境教育の仕事についた後に、野鳥の絵を描く技術向上のために、英国サンダーランド大学自然環境画学科へ留学。滞在中に英国の野鳥雑誌BIRDWATCHのコンペティションにて、最優秀画家の一人に日本人として初めて選出される。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。

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1件のコメント

深沢幸子
深沢幸子

2023年8月02日

神戸宇孝様
コロナ渦で探鳥会も無くなり、家で鳥の絵を描き始めました。絵心もなく初めは図鑑の鳥を真似て描いてましたが、動きの無い鳥は面白くありません。
神戸さんの話にはとても惹きつけられました。全くの初心者ですが「フィールドスケッチ会」に参加したいです。
相模原市在住なので首都圏でしたら参加できます。よろしくお願いします。


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